建設業界は、多くの業界と同様にデジタルトランスフォーメーション(DX)の波に取り残されていると言われています。しかし、その背景にはどのような課題が存在するのでしょうか。本記事では、建設業界のDXの現状と、それが進まない理由について探っていきます。
建設DXの現状と日本の遅れ
さまざまな業界でDXが注目され、効率化や利益向上を目的に取り入れている企業が増えています。特に建設業界では、人材不足や熟練技術の継承などの問題を解決する手段としてDXが注目されています。しかし、多くの企業がDXの導入を難しいと感じ、実際の進行は遅れています。なぜ建設業のDXが進まないのか、その理由を探る必要があります。
IT専門調査会社のIDC Japanの調査によると、建設業のDX化は国内では2番目にDXが進んでいる業界だと言われています。
さらに、アメリカ・フランス・イギリス・ドイツ・韓国・中国などの先進国を含めた12ヵ国を比較しても、日本の建設業界のDX成熟度は1番だという事が分かっています。
ではなぜこのような調査結果にも関わらず、日本のDX化は遅れていると言われているのでしょうか?
注目すべきは、国別成熟度の順位が高くても、成果が上がっていないという面です。
この調査では、「DXのパフォーマンスレベル」という評価があり、それによると日本は、5段階中下から2番目の「限定導入」という結果になっています。
さらには、経済産業省の調査によると、全面的にDXに取り組んでいる企業は10%にも満たない事が分かっています。
日本のDXレベルはまだまだ低い水準であるという現状が明るみになってしまいました。
この調査から、日本だけではなく世界的に建設業界のDXレベルが低いとも言えそうですね。
デジタル化の格差問題
全国の建設業で行われたアンケートによると、多くの企業がデジタル化に取り組んでいると回答しています。しかし、業務プロセスごとにデジタル化の進行度に格差が見られます。特に、図面から材料の数量を把握する「拾い業務」に関しては、デジタル化の実感が薄いと感じる人が多いようです。
大きな課題の一つとして、デジタル化しやすい分野とそうでない分野による、【デジタル格差】です。
野原ホールディングス株式会社が「デジタル化による生産性向上、業務効率化」が進んでいるものと遅れているものを、業務プロセスごとに調査した結果、以下の表の通りになりました。
進んでいると思う業務プロセス | 遅れていると思う業務プロセス |
---|---|
設計関連業務(設計・監理など)(46.6%) | 施工・専門工事(35.3%) |
見積・積算業務(38.4%) | 営業(25.1%) |
施工管理(30.75%) | 施工管理(23.1%) |
施工・専門工事(14.6%) | 購買・調達業務(15.5%) |
営業(13.7%) | 見積・積算業務(15.4%) |
分野ごとの格差がある限り、業界全体の推進力が落ちてしまいます。
遅れている分野の原因解明が必要になりますね。
建設業のDX化の障壁
建設業者がDX化を進める上での障壁として、IT人材の不足や社内体制の未整備、システム投資への予算不足などが挙げられます。特にIT人材の不足は、どの業界でも共通の課題となっており、新しい技術や手法の導入を阻害する要因となっています。
IT分野での人材不足は、DXを推進する上で重要な問題となります。
この問題を解決する方法の一つとして、人材育成のためのリスキリングが考えられます。
リスキリングを行うためには、企業全体で必要な教育システムの構築を進め、目的意識を共有する事が重要になってきます。
IT技術が目まぐるしく進化する現在では、リスキリングは必要不可欠かつ急務で、企業の今後の成長は人材教育次第とも言えるでしょう。
DX化の成功例とその背景
企業名 | 事例 |
---|---|
清水建設 株式会社 | ・設計図のBIMデータを施工から制作、運用に活用 ・ロボット、3Dプリンターを使用しデジタル化施工を推進 ・建物の基本ソフトウェアにBIMデータを展開し、 入居者や管理者に様々なサービスを提供 |
鹿島建設 株式会社 | ・スマートシティ「HANEDA INNOVATION CITY」によって、 現実空間を仮想空間に再現。 様々な産業の交流機会を生み出し、地域の課題解決サービスによって 持続可能な都市を目指している |
株式会社 上東建設 | ・「受発注者間工事情報共有システム」を導入し、 発注者と受注者の円滑なコミュニケーションを実現。 さらに、遠隔臨場機能を使う事によって、検査等を リモートで行う事が出来る |
佐多エンジニアリング 株式会社 | ・クラウドサービスを導入し、出先でも現場の進捗状況を 把握する事が出来るようになった |
大成建設 株式会社 | ・遠隔巡視システムをロボットに搭載する事で、 検査や安全確認業務を効率化 ・IoTデータを活用し、現場管理の効率化を実現 |
一方で、建設業界においてもDXの成功例は存在します。3Dデータの活用やAIを用いたデジタルツインの実現、ドローンカメラとAIを組み合わせた遠隔点検など、先端技術を取り入れた事例が増えてきています。これらの成功例から学べることは、新しい技術や手法の導入だけでなく、それを活用するための体制や人材育成が不可欠であるということです。
より効率的なDXを進めるためには、ツールの組み合わせ方がカギになりそうですね。
方法 | 概要 |
---|---|
無人建機の遠隔操作技術 | ・この技術によって、怪我のリスク軽減、移動時間の削減、 勤務場所の制限の減少などが実現可能となる。 |
AIに熟練技能をインプット | ・作業プロセスを映像に記録し、AIで分析してマニュアル化することで、個人依存の技術継承が可能になる。 ・この分析された技術をロボットが習得することで、人手不足の問題を解決することが期待される。 |
3Dプリンタによる生産性向上 | ・デジタルツインによって、竣工時のリスクや運用時の問題点を事前にシミュレーションすることができる。 ・確認されたデザインは現場で「オンサイト3Dプリンティング」によって実際に生産され、デジタル上の確認と建設作業がスムーズに繋がる。 ・一点物の部品や建材が必要な建設で効果的であり、作業の再調整を減らし、工期の短縮と品質の向上が実現する。 |
測量や点検へのドローンの活用 | ・人が近づけないような高層ビルや建物の屋根などの点検業務で活躍する。 ・主に、光学カメラによる測量や、レーザー測距装置と位置情報データを組み合わせた距離測定が可能になる。 ・上空から撮影した画像をAIで解析し、高精度で異常を検知する事が出来るようになる。 ・作業時間の短縮、作業員の安全確保などの面でも有効活用できる。 |
建設DXの未来とは?
建設業界のDXは、単なる技術の導入ではなく、業務全体の見直しや人材育成が必要です。信頼できるパートナー企業との連携や、社内の意識改革も欠かせません。今後の建設業界の発展のためには、DXを真剣に取り組む姿勢が求められます。
建設業界のDX化には、最新のIT技術が必要であり、またその技術を扱えるようになるためには、リスキリングによる人材育成の仕組み作りも重要となります。
近年、様々な業界でDXの推進が必要不可欠となっています。
日本のインフラ分野を担う建設業もその例外ではありません。
建設業界の進展のためには、どうすれば良いのかを考えて行きましょう!