観光業界は、テクノロジーの進化とともに大きな変革を迎えています。この記事では、観光DX(デジタルトランスフォーメーション)とリスキリングがどのように連携し、観光業界に新たな価値をもたらすのかを解説します。具体的な事例や手法、自治体との連携についても詳しくご紹介します。
観光DXとは何か?その重要性と現状
観光業界は、テクノロジーの進化によって大きな変革を迎えています。観光DXとは、デジタルテクノロジーを活用して観光業界のサービスや運営を効率化・最適化する取り組みです。
DXによる重要性と課題
少子高齢化によるGDPの減少
- 世界有数の高齢国家である日本では、晩婚化による出生率の減少や高齢化により労働人口が年々減少。GDPが下がり続けています。
しかし「外国人観光客が自国で使ったお金」はGDPに含まれます。
外国人観光客が増えることにより、GDPは高くなります。
日本の観光業界の遅れを取り戻す
- 国土交通省の2021年のコロナ禍前の調査によると、外国人旅行者受け入れランキングで日本は25万人でランキング外、国際観光収入ランキング29位でアジアとして6位。
これは、2019年コロナ禍前までは外国人観光者受け入れランキングで日本は世界で8位、アジアで2位 →2021年はランク外。
国際観光収入ランキングでは世界で7位、アジアで2位→2021年29位でアジアとして6位。と大きく下落しています。
観光業の成長は日本経済活性化につながる
- 外国人観光客が多くなることによって、観光による収益が上がり業界が豊かになるため、施設投資やさらなるマーケティングのための予算を増やすことができます 。
それによって観光業だけにとどまらず、それ以外の企業や一般の消費者の投資や消費が増え、お金の流れができる道筋となるでしょう。
引用元:CloudFit
引用元:国土交通省
DXの基本概念と観光業界での意義
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業や業界がデジタルテクノロジーを活用して、ビジネスプロセスや顧客体験を変革することを指します。観光業界においては、DXは顧客の満足度向上や業務効率化に直結します。
デジタルテクノロジーを活用し、顧客情報や行動傾向、ニーズなど分析をすることにより、企業側はスタッフ配置の調整や客層に合わせたサービス提供ができます。観光客側は混雑状況が把握できるので、効率よく観光できたり、ニーズに合った質の高いサービス提供を受けられるといったメリットがありそうですね。
DXの推進による観光・地域経済活性化実証事業とは?
4つの事例
①LOCAL CRAFT JAPAN
デジタル技術を使いガイドブックでは紹介しきれない魅力をオンライン・カンファレンスシステムやVRを駆使して、国境を越えた日本の伝統工芸産地を巡るツアーを行っています。
②さるぼぼコイン
岐阜県飛騨市、高山市、白川村の自治体で使用できる『地域限定電子通貨』
PayPayの地域限定版のようなイメージのサービスです。
・二次元コードでらくらく決済
・チャージごとにプレミアムポイント付与
・ユーザー同士でコイン送金可能
・ひだしん預金口座との連携で簡単チャージ
といったメリットがあります。
ユーザー数は2022年1月末時点で約2万4600名、加盟店は17,000店です。
累計決算額は約51億円となっていて、地域経済の活性化に繋がっています。
③VELTRA
VELTRAでは国内外のツアーやアクティビティの予約を行っています。
こちらでは『心揺さぶる旅の体験』をオンライン上でバーチャルツアーとして楽しめます。
④JTB
『JAPAN Trip Navigator』アプリを提供しています。
来日外国人観光支援を目的としたアプリで、観光スポットやモデルプランの情報提供、お困りごとをチャットで対応するなど、AIを活用して来日観光外国人のサポートを24時間トータルサポートするサービスとなっています。
中小企業・小規模事業者等が対象の助成金(IT導入補助金2023)
通常枠(A・B類型)
業務の効率化・ 売上アップにむけ、業務をデジタル化するためにソフトウェアやシステム導入する為の補助
補助額
A類型 (補助率 1/2以内) 5万以上~150万円未満
B類型 (補助率 1/2以内)150万円以上~450万円未満
デジタル化基盤導入枠
デジタル化基盤導入類型
会計ソフト・決算ソフト・受発注ソフト・ECソフトに特化。生産性の向上を図る取り組みをサポート
補助額
ソフトウェア等
補助率3/4以内 (下額なし)~50万円以下
補助率2/3以内 50万円超350万円以下
ハードウェア
PC、タブレット等 補助率1/2以内 10万円以下
レジ、販売機 補助率 1/2以内 20万円以下
複数社連携IT導入類型
業務で繋がりのある「サプライチェーン」や「商業集積地」に属する複数の中小企業・小規模事業者等が連携してITツールを導入し、生産性の向上を図る取り組みを支援
コーディネート費や取り組みへのサポートを行う外部専門家にかかる謝金等も含まれます
補助額
基盤導入経費:
補助率3/4以内 50万円以下( 下限なし) 3,000万円以下
補助率2/3以内 50万円超~350万円 3,000万円以下
事務費、専門家費 補助率2/3以内 200万円以下 補助上限額は、(基盤導入経費の合計額)×10%×( 補助率2/3)もしくは200万円のいずれかの小さい額
セキュリティ対策推進枠
高まるサイバー攻撃のさまざまなリスク低減を支援
補助額
サービス利用料の1/2以内 5万円以上100万円以下
商流一括インボイス対応類型
インボイス制度に対応した受発注システムが対象
補助額
中小企業・小規模事業者等が申請する場合:
補助率2/3以内 (下額なし)~350万円以下
その他の事業者等が申請する場合:
補助額1/2以内 (下額なし)~350万円以下
引用元:IT導入補助金 2023
観光DXの事例と成功要因
観光DXの成功事例としては、AIを活用した観光情報提供サービスや、VRを用いた観光体験があります。成功要因としては、顧客ニーズの的確な把握と、それに応じたサービス提供が挙げられます。
京都市の観光情報アプリ 〈京都市観光マップ〉
京都市観光マップとは、観光客の利便性向上を目的としたアプリです 。
訪日外国人観光客の増加に対応するために開発されており、多言語対応で外国人観光客にも分かりやすく情報提供してくれます 。
限定のイベントや人気の食事処や宿泊先の案内、GPS機能を活用して交通機関の乗り換えや徒歩ルートの案内など、まさにかゆいところに手が届く素晴らしいアプリです。
大阪観光局のインバウンド方策
大阪観光局では、訪日外国人観光客に観光情報やお役立ち情報 、イベントや人気のお食事処の案内などをしてくれる、スマートフォンアプリやサイトを提供しています。
また、インフルエンサーマーケティングやSNSを利用した販売促進に積極的に取り組んでいる事により、中国や韓国などの東アジアをはじめた多国から外国人観光客が訪れるようになりました。
箱根観光ポータブルサイト〈はこねナビ〉
はこねナビとは、『箱根の観光情報を提供するポータルサイト』です。
外国人観光客に使いやすくするため他言語対応はもちろん、豊富な情報や旅行プランの作成、予約が容易にできることで滞在期間の延長や消費額の増加に一役買っています。
また、電車やケーブルカー、ロープウェイなどの混雑状況やバスなどのリアルタイム情報も発信されております。
オンライン旅行体験ができる〈バーチャル沖縄〉
沖縄県が展開するオンライン旅行体験プロジェクト「バーチャル沖縄」ではVRを使い、まるで沖縄に訪れたような体験ができます。
「バーチャル沖縄」ができた背景としては、新型コロナウイルス感染の影響で外国と国内の観光客が激減したことにあります。
VRを使い美しい海や豊かな自然をリアルタイムで体験できるサービスや、オンラインツアーで沖縄の伝統文化・伝統工芸を学べるので沖縄への理解が深められます。
さらに沖縄の公式オンラインショップでは、商品の購入も可能です。
引用元:NTT東日本
観光業におけるリスキリングの必要性とその方法
リスキリングとは、既存のスキルセットを再評価し、新たなスキルを習得するプロセスです。観光業界においても、テクノロジーの進化や消費者ニーズの変化に対応するためには、リスキリングが不可欠です。
「昔はこうだった」のやり方は、いつまでも通用することではないですよね。子供の頃は現金が主流だったのに、今は電子マネーが現金にとって変わりつつあるように、時代の変化に合わせて変わっていくことは大事だと思います。
観光業界のDX推進には観光客に的確なサービスを提供できると言ったメリットがあります。
多くのデータを収集することにより、観光客の行動や思考に合わせたサービスが提供でき、顧客の満足度を上げるだけではなく、リピーターとして消費拡大もデジタル化することによって容易にできるようになるでしょう。
観光にまつわるものとしては、以下の例が 挙げられます。
- 混雑状況の配信サービスで混雑状況が事前にわかることによりスムーズな観光を可能にするサービス
- バーチャルツアーをはじめとした仮想空間の活用でさまざまな体験を提供。EC サイトと連動すると特産品購入も可能
- スマホによるチェックアウトサービスで、会計の待ち時間を解消
こういったデジタル技術を活用するためには、業務において必要なスキルを取得するために技術と知識、経験の組み合わせを見直し、新しい技術を取得することが必要となります。
なぜ観光業界でリスキリングが必要なのか
観光業界は季節や行事、地域性など多くの要素に影響を受けます。これらの変動要素に柔軟に対応するためには、リスキリングが必要です。
日本は労働人口が年々減少しており、GDPが下がり続けています。リスキングに取り組むメリットとして、人手不足の解消や業務の効率化、新しいアイディアが生まれやすくなるといったことが挙げられます。
外国人観光客へ質の高いサービスを提供することにより、満足した外国人観光客が日本の良さを広めてくれると思います。そうなれば日本に来る外国人観光客が増え、GDPを増やす事ができるのではないかと思っています。その為、観光業界におけるリスキングは重要度が高いと考えます。
リスキリングと給料の関係
リスキリングを進めることで、スキルセットが豊富になり、それが給料にも反映される可能性が高まります。
パーソルグループのパーソルイノベーションは2023年3月14日、リスキリングに関する調査結果を発表しました。
調査によると約7割の企業がリスキリングを進めたあと昇給を実施(33.1%)、もしくは検討している(37.5%)と計70.6%だったと発表。
企業はリスキリングした社員の昇給に前向きな姿勢を見せていることが分かりました。
企業が求めてるスキルは『攻めのスキル』が重視され、『ITプロジェクトマネジメント』(42.3%) 、『データ活用』 (38.7%)、『クラウド活用』(35.1%)の順にスキル取得を重視しているようです。
引用元:経済XTECH
リスキリングの具体的な手法とステップ
リスキリングの具体的な手法としては、オンラインコースの受講、メンターとの1on1セッション、実務でのスキルの適用などがあります。
体験談としては最近話題のチャットGPTを取り入れようと、YouTubeで概要を調べ勉強会に参加し、チャットGPTと別のプラグインを組み合わせて画像生成をする事を学びました。プロンプトを入力することで1.2分で簡単に画像が生成できるのでインスタ運用やサムネイル作りがあっという間にでき、ゼロから作っていた時間と比べると数十倍の早さで作成できました。AI技術を使うとこんなにも時短に繋がると感動的でした。
観光DXとリスキリングの連携
観光DXとリスキリングは、それぞれが持つ強みを活かし合うことで、より大きな成果を上げることができます。
人の力だけだと限界はありますが、DXの力を借りることによって効率化や生産性だけではなく、新たな活用法が生まれインバウンドが狙えそうですね。
DXとリスキリングがもたらすシナジー効果
DXによる効率化と、リスキリングによるスキルの多様化が合わさることで、観光業界に新たな価値をもたらします。
季節や行事に依存しない新しいビジネスモデル
DXとリスキリングを組み合わせることで、季節や行事に依存しない新しいビジネスモデルが生まれます。
変化の激しい時代でニーズも多様化されていく中、それに対応するのためにも、デジタルに関連する技術を身につけることは時代に対応することに直結するので、とても大切な事だと思います 。
連携することで解決できる課題
DXとリスキリングの連携により、人手不足やスキルの偏り、季節変動による収益の不安定性など、多くの課題が解決します。
デジタル技術を導入することで得られるメリット
- 業務の自動化により、効率化や人的ミスの防止に繋がる。
- 最適な人員配置ができるためコストが削減できる。
- 季節変動指数の把握をしやすくなる。
- 過去の販売実績をもとに的確な発注・棚卸・ 在庫管理・生産管理などがしやすくなり現場作業の改善につながる。
自治体との連携で地域を元気に
「情報技術の浸透があらゆる面で人々の生活を良い方向に変化させる。」といった仮説があるように、これまでアナログで行っていた業務を、デジタル技術を活用して業務の効率化やデジタルサービスの改善を行う事により、職員の負担を軽減だけではなく、地域住民の利便性の高い社会を提供に繋がると思います。
地域社会と連携することで、観光業界だけでなく、地域全体が活性化します。
地域社会と連携したDXとリスキリングの事例
地域社会と連携したDXとリスキリングの事例としては、地域資源を活用した観光プロモーションや、地域住民向けのリスキリングプログラムがあります。
サイクリングアプリを活用し観光需要を調査【滋賀県】
滋賀県にはサイクリングが盛んな琵琶湖一周のルートなどがあり、サイクルツーリズムの推進に取り組んでいます。
県内の観光スポットや飲食店を楽しんでもらおうと、サイクリング専用アプリ 「BIWAICHI Cycling Navi」を公開。
このアプリに蓄財したデータを活用することにより、サイクリングを楽しんでいる人がどんな場所に立ち寄っているのかを分析し、消費者の需要を調査することができます。
集めたデータは琵琶湖周辺にとどまらず、新たな観光需要の創出に繋がっていきます。
デジタル技術を活用し観光マーケティング【京都府南山城村】
過疎化が進む南山城村では、新たな観光事業の創出に取り組み地域活性化を目指しています。
loT技術を活用した観光関連データの収集の取り組みと、PRツールを導入、人気の道の駅「お茶の京都南やましろ村」に機器を設置し、観光客のデータ取得と分析が可能になりました。
観光客の起点となるJR駅や道の駅などに電子看板を配置し、施設やイベント情報などの観光案内を配信しています。
AI技術を活用した観光の促進【鳥取県北栄町】
北栄町は「名探偵コナン」の生みの親、青山剛昌先生の出身地でもあることから 、「コナン通り」を中心に町内を巡ってもらうためARを活用したウォーキング事業「ゆらまちウォーク」を実施。名探偵コナンのキャラクター達に出会える楽しい街づくりを行っています。
町内のオブジェや看板に設置されているマーカーを、専用アプリで読み取るとコナンで登場するキャラクター達のデジタルスタンプがもらえます 。全部で10種類あり集めると、限定のオリジナル待ち受け画像までもらえます。
引用元:財務省
観光DXと自治体の関係
観光DXと自治体との関係は、補助金や人材育成プログラムを通じて密接になっています。
国が実施するDX推進のために補助金・助成金を出す制度にキャリアアップ助成金があります。キャリアアップ助成金は、労働者の企業内キャリアアップを後押しする為の制度です。正社員登用や賃上げなどの取組みをした企業に対しての助成金で、「正社員化支援」・「処遇改善支援」があります。DX推進のために人員体制を強化したり給料の底上げを行う等の場合に活用が可能な制度となります。
その他に自治体が独自に補助金・助成金制度を設けてDX推進をすすめているケースがあります。
一例として
さっぽろ産業復興財団では企業DX推進への支援として、DX事例紹介やDXに活用できる支援対策の紹介をさっぽろDXイノベーションセミナーを開催して紹介しています。他にもDXビジネスマッチング交流会やDXを推進する人材を対象に、知識やスキル等の学習を目的としたワークショップを実施や中小規模DXハンズオン相談支援などをおこない観光DXと自治体との関係は密接になっています。
引用元:札幌市
自治体とどう連携するか
自治体との連携方法としては、共同プロジェクトの立ち上げや、地域資源の共有、情報交換が有効です。
(吹き出し:自分自身の見解や意見)
情報交換や地域資源の共有など、協力し合うことにより新たな発見や価値が生まれ、結果的に地域全体が潤いそうですね。
付加価値の高いサービスを提供するために、業務や営業の効率化・高度化することと、デジタルツール同士のデータ連携は必要不可欠です。しかし使用している既存のデータツールと入出力の規格が異なると不具合が発生します。
観光産業の生産性向上における解決策としては 、経営資源の見える化と業務効率化、業務効率化により作り出された資源の活用、 各地域での事業者間の連携という情報共有する取り組みが重要です。
観光産業では、全体的に様々な問題を抱えているので、地域が一体となって業務効率化、情報共有に関する工夫が大切になってきます。例えば体験・アクティビティ事業では、イベント実施の直前に旅行者から予約が入る事が多いようで、予測で人員配置する事がとても難しいようです。このような課題の解決の為には、宿泊事業者が予約に関するデータを共有することで、訪れる旅行者の数がどの程度なのか把握することです。これは他の事業にも同じ事が言え、飲食店では仕入の効率化にも有効です。このように地域全体で協力し、情報共有することで業務が効率化され、結果地域全体の観光収益の増加に繋がります。
引用元:国土交通省
【まとめ】観光DX事例から見るリスキリング
本記事では、観光DXとリスキリングが観光業界にどのような影響を与えるのか、具体的な事例とともに解説しました。
人が移動することで成り立っていた観光業界は、コロナウイルスの感染症拡大により大打撃を受けました。
GDPを高めるため訪日外国人を増やす取り組みとして、オンライン上で楽しめるバーチャルツアーやAIを活用して来日観光外国人のサポートを24時間トータルサポートするサービスといった訪日外国観光が楽しめるアプリを開発。
人員不足や効率化、再訪問の促進に繋げるための取り組みととして、DX推進は観光事業者にとって業務改善や、抱えている課題を解決するだけではなく、観光客にも新しいサービスの提供や体験ができるなど大きな役割を果たします。
顧客のデータ管理やデーター分析を任せられるようになれば、集客キャンペーンなど再訪問の促進につなげるための時間にあてられます。
そのため時代に合わせた新しい形に対応するために観光業界におけるDX推進は重要なものであり、それに向けたリスキリングもまた重要であると思います。
本記事で得られた知見と次のステップ
観光DXとリスキリングは、それぞれが持つ強みを活かし合うことで、観光業界に新たな価値をもたらします。次のステップとしては、具体的なアクションプランの策定が求められます。
各地域でデジタル化が進み効率化や生産性が上がっても、業界で連携ができていないとスムーズにはいきません。
それぞれの強みを活かし、連携と協力し合うことで新たな価値を生み出すことができると分かりました。
IT技術を活用して社会をより良く変革していく事ができれば 、効率化や顧客の満足度アップに繋がり、企業と顧客にとってもメリットがありそうですね 。