最近、ビジネスや転職の話題で、「リスキリング」という言葉がよく取り上げられます。
この言葉について、単純に「学び直し」と捉えている人が多いのではないでしょうか。
今回は、リスキリングとリカレントの違いについて調べてみました。
また、両者の違いを通して、これから社会に求められる人材について考えてみました。
リスキリングとリカレント教育の違い7選
「学び直し」という同じ意味を持つ、リスキリングとリカレント。
この違いについて、7つのポイントをご紹介します。
①個人主体か?企業主体か
リスキリングとリカレントの一番の違いは、リスキリングが「企業主体の学び直し」であることです。
- リスキリング
今あるスキルに加えて、働き方や業務の変化によって必要となる新しいスキルを、企業が従業員に学んでもらうこと。 - リカレント
社会人が必要に応じて自主的に大学などで再教育を受け、仕事と学習を交互にくり返すこと。
リスキリングは「仕事で価値」を出すため
個人主体の学び直しであるリカレントでは、学習する分野は限定されません。
一方、企業主体のリスキリングでは、仕事で価値を出すための、実用的な学び直しが求められます。
具体的に注目されているスキルは、専門性の高いデジタルスキルや、リモートワークに向けたビジネスコミュニケーションなどがあげられます。
②自発的に学ぶかどうか?
リカレント教育は、企業の進学サポートや留学支援を利用できる場合もあり、教育機関で学ぶケースがほとんどです。また、必ずしもキャリアアップを目指す学習ではありません。
これに対してリスキリングは、個人が自らのキャリアを見据えて、自発的に行う学習です。
自分の意思でキャリアアップを目指すのがリスキリング
リスキリングでは主に、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)において、新しく必要になる知識やスキルを学習します。
そのため、対象者は、社内でのキャリアアップやキャリアチェンジ、または専門業種への転職を目指して学習することになります。
リスキリングを主導するのは企業ですが、学校教育や社内研修とは異なり、対象者は自身のキャリアを考えて、自発的に学習する必要があります。
③自律型の人材育成に繋がるか?
政府が推進するリスキリング政策は、スキルアップを希望する、自律型の人材を応援する政策です。
自主的に学ぶ意思を応援するのがリスキリング政策
国全体のDX化を進めるため、経済産業省は2021年から「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開始し、「デジタルスキルの継続的な学び直し」について検討しています。
現在は、無料でデジタルスキルを学べる講座を紹介する「マイナビDX」や、デジタル技術関連の講座である「リスキル講座(第四次産業革命スキル習得講座認定制度)」などが提供されています。
【マイナビDX】
https://manabi-dx.ipa.go.jp/
【第四次産業革命スキル習得講座認定制度】
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/index.html
他にもリスキリングの施策は進められており、人材を確保したい企業と、スキルアップしたい個人の両方が活用できます。
率先して新しいスキルを身につけたい人や、これから成長産業へ転職したい人にとっては、自分の価値を高めるチャンスになりそうです。
④ジョブ型?メンバーシップ型?
リスキリングは、これからの雇用形態の変化にも役割を持っています。
個人に特別なスキルを身に着けるのがリスキリング
リスキリングは、個人が専門性の高いデジタルスキルを身に着けるため、こうした人材が増えることで、これまでの日本に多い「メンバーシップ型雇用(人が会社のメンバーになる雇用)」から、「ジョブ型雇用」へ移行する企業が増えると予測されています。
ジョブ型雇用とは?
業務内容や勤務時間、必要なスキルなどを明確に定めた上で雇用契約を結ぶこと。
年齢や学歴ではなく、スキルを有しているかが重要。
別部署への異動や転勤などは無く、給与はスキルや役割によって決められる。
最近は、働き方の多様化や、ワークライフバランスの観点からも、ジョブ型雇用が注目されており、大企業から徐々に導入が進んでいます。
リスキリングが普及し、特別なスキルを身に着けた人材が増えることで、日本の雇用形態が変わっていくことが期待されています。
⑤生涯身に着けるスキルか?今すぐ使えるスキルか?
リカレントは、一生涯身に着けるスキルを学ぶ取り組みと言えます。
社会人が各々のタイミングで立ち止まり、人生の方向性を検討して学び直す、重要な機会です。
これに対してリスキリングは、今すぐに使えるスキルを学ぶ取り組みです。
新しく今すぐ使えるスキルを身に着けるのがリスキリング
リスキリングは、新たな仕事の即戦力になる、実践的なスキルを身に着ける学習です。
今の日本でDX人材の不足は深刻な問題であり、今後は優秀な人材の獲得競争も予想されています。
そのため、企業にとってリスキリングは、新しい業務をすぐに担える人材を、社内で確保できるメリットがあります。
リスキリングがさらに浸透し、キャリアアップする人が増えるためには、「企業が学んでもらいたいこと」と「個人が学びたいこと」のすり合わせが、今以上に必要になると考えられます。
⑥本来の仕事を離れるかどうか?
リカレントとリスキリングは、「学習期間に本来の仕事をどうするか?」という点においても、取り組み方が異なります。
本来の仕事と同時並行で学ぶのがリスキリング
企業によっては、学び直しのための休暇制度を設けている場合があり、リカレントでは、こうした制度を利用して、仕事を離れて学び直すケースが多いようです。
一方、リスキリングは、今の仕事でスキルを磨きながら、さらに新しいスキルを身に着ける学習です。
仕事と並行しての学習は大変に思えますが、本来の仕事に対するモチベーションが上がったり、学習内容を仕事の場で実践的に試せるなどのメリットがあります。
⑦世界で注目されているのがリスキリング
日本では、まだまだ浸透していると言えないリスキリングですが、諸外国ではすでに、各企業での取り組みがあります。
アメリカではレイオフ(解雇)の事前準備のためにリスキリングを導入している会社がある
たとえば、コロナ禍によって倒産やレイオフが急増したアメリカでは、「アウトスキリング」が行われています。
アウトスキリングとは?
レイオフの可能性がある従業員に、成長産業への就職に役立つ教育を実施し、スキルアップとキャリア形成を支援すること
アウトスキリングで学習する内容は、リスキリングと同様ですが、あわせてコーチングや職業紹介などをしっかり組み合わせて提供されることが多いようです。
仕事を失う可能性がある人にとって、前向きになれる教育であるうえ、企業と個人の関係性にも配慮された取り組みです。
「アンラーニング」という苦渋の決断を迫られる社会人
「アンラーニング」とは、すでに持っている知識や価値観を振り返って取捨選択したり、新たなスキルを身に着けることで行う、「学びの修正」です。
せっかく得た知識やスキルを捨ててしまうことは、無駄のように思えますが、アンラーニングは、なぜ重要なのでしょうか。
過去に学んだ知識を捨てて、新しく学び直す必要性
変化に対応できる社会人になるため
これまでに不況やコロナ禍を経てきたように、変化が目まぐるしい今の社会では、必要とされるスキルも変わり続けます。
社会に合わせて柔軟に、知識やスキルを取捨選択し続けなければ、次に変化が訪れたときには行き詰まってしまうかもしれません。
これからの社会人は、仕事のやり方に固執せず、時代に応じて学び続ける姿勢が求めらるため、アンラーニングは重要な取り組みです。
日本を前進させるため
諸外国に比べて遅れをとった日本がDX化を進めるためには、多くの企業で、専門的なスキルを持ち、変化に強い人材を増やすことが重要課題です。
企業はリスキリングを主導するとともに、従業員に向けて、変化に対応できる意識改革をうながす必要があります。アンラーニングは、この意識改革にも役立つ取り組みと言えます。
リスキリング支援に岸田総理「官民挙げて推進を」
2023年8月31日に、リスキリングの重要性を考えるシンポジウム「日経リスキリングサミット2023」が行われ、岸田首相はビデオメッセージで、「官民が連携してリスキリングを広げる重要性」を伝えました。
また、メッセージの中では、政府が個人のリスキリング支援に、5年間で1兆円を投じる方針を紹介し、首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」は人への投資が基盤になると話しました。
【まとめ】リスキリングとリカレントの違い
リスキリングとリカレントは、両方とも有益な学び直しです。
ただし、これからの社会でより求められるのは、専門的なスキルを持った人材であり、日本全体で推進する動きがあるため、社会人の学び直しとしては、リスキリングが中心になっていくと考えられます。
近い将来、DX人材が不足する一方で、AIやロボットの普及によって複数の業種で仕事が失くなると予想されています。
変化が大きい社会で活躍していくためには、目的を持って学び直しを行うかどうかが重要なポイントになりそうです。
でも、社会人の学び直しは、「リカレント教育」じゃないの?
リスキリングとリカレントは、どう違うの?